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ここがポイント

副作用の全くない薬を作り出すことができればそれはすばらしいことですが、多くの場合、薬の治療効果と副作用は表裏一体の関係です。

日常的な風邪で飲む薬で重篤な副作用が出てしまうと大きな問題ですが、ガンなどのように薬を飲まなければ命に関わるような疾患の場合は、ある程度の副作用を受け入れなければならないこともあります。このように、薬をどの程度効かせるかについては病気ごとに異なりますし、薬の効き方も患者一人一人の遺伝子の違いによって差があります。

同じ病気の患者が同じ薬を同じ量飲んでも人によって病気の治り具合はさまざまです。この現象は、かつては個人個人の体力や回復力の違いによるものであろうと漠然と考えられていました。

しかし1970年代後半に抗高血圧薬や抗うつ薬の処方において、他の人には全く見られない非常に強い副作用が出る患者がいることが発見されました。その理由を解明する研究の過程で、これらの特異な患者は薬を分解する能力が弱いことが確認されました。

さらに、遺伝子レベルでその人たちの代謝酵素を調べて一般の人と比較した結果、薬を分解する酵素の遺伝子配列が異なっていることがわかりました。どうやらこの遺伝子の違いによって、薬を分解する能力が高い人と弱い人に分かれてしまうようなのです。

これをきっかけに、多くの薬物代謝の遺伝子について、その配列の解明と薬の効き方や副作用が異なる人同士の遺伝子を比較して、その違いがどこに由来するのかといったことを確認する研究が加速しました。

こうした研究は、単に薬の効き方の個人差を調べることを目的としているのではなく、将来のオーダーメイド医療を見据えた研究です。

オーダーメイド医療といえば、最近話題のiPS細胞などに代表される臓器移植までも含んでしまう広い概念ですが、薬物代謝の個人差に関していえば個別薬物療法と呼ばれ、薬の効果を最大限発揮させつつ副作用はリスクとベネフィットの関係に配慮しながら最適の領域まで押さえ込む薬の処方を個人ごとに行おうとするものです。

 


シトクロムP450の違いが個人の違い

薬の効き方には「吸収」「分布」「代謝」「排泄」の薬物動態の4因子すべてが関わってくるわけですが、遺伝子レベルで最も影響力を持っているのは「代謝」です。薬がよく効く人は薬を代謝分解する能力が弱く、薬の効かない人は薬を代謝分解して無効にする処理が素早いと考えられ、薬をあまり代謝しない人を「PM」、薬をどんどん代謝する人(いわゆる普通の人)を「EM」と呼びます。

薬の効果の差異を引き起こす遺伝子由来の原因はいくつかありますが、最も大きく影響を与えるのが「肝臓のシトクロムP450のどのような種類がどれほど活動しているか」ということが人によって異なるという点です。

CYP2D6と名づけられたシトクロムP450の一種は抗うつ薬や抗不整脈薬などの重要な薬の代謝に関係していますが、この酵素は人種差が大きいことで有名です。欧米人の場合では4~5%がPM、つまり薬を代謝する能力が弱いために薬の効果が強く出やすい人です。ところが、日本人ではPMは100人の1人にもならない珍しい存在です。100人に1人以下とはいっても、人数だけを数えると、日本人のうち70万人程度はPMということになるのですが、不思議なことに欧米人のPMと日本人のPMでは遺伝子が全く異なっているのです。欧米人ではこの代謝酵素の遺伝子の符号が1個変異してしまうことが原因でPMになる人が多いのですが、日本人のPMはそのほとんどが2D6の遺伝子を全く持っていません。

このように世界中の多くの人が共通で持っている代謝酵素であるにもかかわらず、日本人では遺伝子を持っていない人が高い率で存在しています。一方で、少数派ですが欧米人型の変異を持つ日本人もいます。なぜ日本人がこのようになったのかは、遺伝子の進化のルートや日本人の由来を解明する上で非常に興味深いことですが、まだその詳細はわかっていません。


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